青酸カリとアーモンド臭

サスペンスもので、死体からアーモンド臭が!『犯人は青酸カリを使ったに違いない!』ってシーンを見かけますが、実際はどうなのでしょうか?

実際に臭いを嗅いだ経験から解説します。

ついでにシアン化合物の処理方法も解説。

目次

シアン化合物

シアンのことを青酸と呼ぶこともあります。青酸カリはシアン化カリウムのことです。シアン化合物と青酸化合物は言い方が違うだけで同じものを指しています。

なぜ青酸と呼ばれるのかというと、むかしフランスのゲイ=リュサックという有名な化学者が青色沈殿(これもシアン化合物)からシアン化水素をつくりました。青色の化合物から出来た酸なので青酸と呼ぶようになったそうです。

ちなみにシアンはギリシャ語のKyanos(青色)に由来します。

代表的なシアン化合物
  • シアン化カリウム(青酸カリ)     KCN←これが一般的には最も有名?
  • シアン化ナトリウム(青酸ソーダ)  NaCN←こっちを使う場合も多い。

最も簡単なシアン化合物はシアン化水素(青酸)〔HCN〕で無色の液体(沸点26℃)です。シアン化水素のガスを吸うと頭痛がして目が赤くなります。高濃度のガスを吸えば即死します。また皮膚からも吸収されます。

シアン化合物があればシアン化水素ガスを発生させるのは意外と簡単です。

他にも鉄などの金属と結合したシアン化合物や有機シアン化合物もありますが、少し性質が変わります。

シアンの臭いはアーモンドの匂い?

では、シアンの臭いは本当にアーモンドの匂いなのでしょうか?

シアン化合物は自然界にも存在していて、梅や杏、桃などバラ科の植物の種に含まれています。この種の中にアミグダリンというシアン化合物の配糖体が含まれています。(※配糖体=糖と他の有機化合物が結合した化合物)

アミグダリンはエムルシンという酵素の働きでベンズアルデヒドシアン化水素とブドウ糖に分解します。

いわゆるビターアーモンド(苦扁桃)もバラ科の植物なのでアミグダリンを含んでいます。

実はこのベンズアルデヒドが巷でよく言われるアーモンド臭の正体なのです。杏仁豆腐のような匂いと言えばイメージしやすいでしょうか。

 チョコレートなどスイーツに使われているアーモンドはスイートアーモンド(甘扁桃)という種類で、アミグダリンはほとんど含まれていないので食用になっています。

※アーモンド臭というとこちらの甘いアーモンドの香りを想像する人もいるかも知れませんが、ここで言うアーモンド臭とはこの甘い香りではありません。

ビターアーモンドのアミグダリンから、ベンズアルデヒドとシアン化水素が生成するので、このベンズアルデヒドの臭いをシアン化水素の臭いだと勘違いしてしまったのではないでしょうか。

シアン化水素の臭いとは?

では、シアン化水素の臭いっていったいどんな臭いなのでしょうか? 臭いを言葉で説明するのは難しいのですが、あえて表現するならば、

苦いにおい、とでもいうのでしょうか。

生臭くもあり鼻の奥にへばりつくような、何とも言えない不快な臭いです。刺激臭という訳ではありませんが、本当にイヤな臭いという表現しかできません。

少なくともアーモンドや杏仁とは似ても似つかぬ臭いなのは間違いありません。

味に関しては青酸カリ自体が強アルカリ性なので、よほど上手に飲ませないと不味くてすぐ気づかれると思います。また青酸カリは分解しやすいので、古いものを使うとすでに青酸カリではなくなっている可能性すらあります。

シアン化合物の処理方法

このように毒性の高いシアン化合物が廃棄物として廃棄された場合、どのように処理されているのでしょうか?

濃度の薄い廃液などは薬剤処理(アルカリ塩素法など)されていますが、濃度がそこそこ濃いものは液体も粉末状の個体も焼却処理がほとんどです。

シアン(CN)は猛毒ですが、C(炭素)とN(窒素)が結合したものです。

ちゃんと熱分解すれば無害化できます。最近の焼却炉は高性能で高温焼却できるので問題なく無害化できるでしょう。

まとめ

青酸ガスの臭いとアーモンドの匂いはやはり違うようです。

古典的なミステリー小説の中で青酸カリが毒殺の手段として使われて来たと思いますが、本当の青酸の臭いを知っている名探偵は少なかった?ということでしょうか。

臭いはさておき青酸ガスは猛毒です。臭いを嗅ぐときは決して深く吸い込まないようにしましょう。

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