洗剤をアルミ缶に入れたら爆発!一体なぜ?

アルミ缶が爆発して中の液体がかかり負傷!というニュースをしばしば耳にします。

ほとんどが洗剤をアルミ缶に入れていた、ということの様ですが洗剤が爆発するなんてことがあるのでしょうか。

実はありえるのです。

『化学』の目で見てみると一体何が起こったのかが見えてきます。

目次

アルミ缶爆発事故

2012年10月20日

20日午前0時15分頃、東京都文京区本郷の東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅のホームに停車中の電車内で、都内に住む20歳代の飲食店アルバイト女性が持っていた業務用アルカリ性洗剤の入ったアルミ缶が突然、破裂した。

警視庁や東京消防庁によると、缶を持っていた女性を含む乗客の20~40歳代の男女16人が手や顔にやけどのような症状を訴え、うち9人が病院に搬送されたが、いずれも軽傷だという。

警視庁などによると、女性は「自分が飲み干したコーヒーの缶に、勤務先の店長からもらった強力な洗剤を入れていた」などと説明。洗剤は、蓋付きの アルミ缶(390ミリ・リットル)に蓋を閉めた状態で入れていた。同庁は、洗剤とアルミ缶が化学反応を起こして水素が発生し、破裂した可能性が高いとみて 調べている。

女性は、千代田区内の飲食店での勤務を終え、御茶ノ水駅から荻窪発池袋行き電車(6両編成)の先頭から5両目に乗った。缶は、ビニール袋で包んだ うえで、紙袋に入れて持っていたという。負傷したのは男性6人、女性10人で、破裂した際に飛び散った液体がかかったという。終電間際で、5両目には約 150人の乗客がいて満員状態だった。

引用:YOMIURI ONLINE

2018年8月26日

JR新宿駅(東京都新宿区)のホームでアルミニウム製の缶からアルカリ性の洗剤が噴出し、通行人が負傷する事故が起きた。洗剤と缶が化学反応を起こし、発生した水素ガスの圧力で缶の蓋が外れ、洗剤が飛散したとみられる。洗剤の容器の移し替えには注意が必要だ。

「山手線のホームでアルミ缶が爆発しました!」。8月下旬、新宿駅員からの110番通報を受けて警察官が駆け付けると、現場にはコーヒーのアルミ缶が転がり、無色透明の液体が飛び散っていた。ホームを歩いていた30代の女性ら2人に液体がかかり、顔や足に軽いやけどを負った。

新宿署は10月、30代の飲食店従業員の男を過失傷害容疑で書類送検。男は自宅で自転車のチェーンを掃除するため、勤務先にあった洗浄力の強いアルカリ性の業務用洗剤をアルミ缶に移し替え、リュックサックに入れて持ち出した。不審な音がしたのでリュックを開けて缶を見たところ、いきなり破裂したという。

引用:日本経済新聞

2023年5月8日

8日、東京・足立区の西新井駅で缶が破裂し女性がけがをした事件で、警視庁が缶の中に入っていた液体を簡易鑑定したところ、強アルカリ性の洗剤の可能性が高いことが分かりました。破裂した缶はアルミ製だったことから、警視庁は化学反応によって気体が発生し、缶が破裂した可能性があるとみて調べています。

8日午後4時ごろ、足立区にある東武スカイツリーラインの西新井駅で、券売機の近くに置かれていたコーヒーの缶が破裂し、利用客の20代の女性が額や体にけがをしたほか、女性を介抱した駅員も手に痛みを訴え病院で手当てを受けたということです。

警視庁は、破裂の数分前に缶を置いて立ち去った足立区に住む中国籍の49歳の利用客から任意で事情を聴いていて、これまでの調べで「勤め先の洗剤を家で使うため缶に入れていたもので、破裂は故意ではない」と話していることが分かっています。

けがをした女性は「体にかかった液体が熱い」と話していて、警視庁が、缶の中に入っていた液体を簡易鑑定したところ、強アルカリ性の洗剤の可能性が高いことが分かったということです。

破裂した缶はアルミ製だったことから、警視庁は化学反応によって気体が発生し、密閉された缶の内部の圧力が高まり、破裂した可能性があるとみてさらに詳しく調べています。

引用:NHK

発生原因

この事故が起きた原因は何だったのでしょうか?

実は3件とも同じ理由でした。

3つの事件すべてに共通していたのは、

『アルミ缶に強アルカリ性の洗剤を入れていた』ということです。

強アルカリ性洗剤とは?

強アルカリ性洗剤は洗浄力が強いため、主に業務用として用いられています。

水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが含まれており、油汚れに強く、たとえばレンジまわりのベトベト油汚れなどに効果を発揮します。
これは、トリグリセリドのような油汚れの成分である油脂類をアルカリが分解するためです。

また、アルカリはタンパク質を溶かす性質があります。
そのため、脂肪酸などの皮脂やその他のタンパク質汚れに対しても強いという特徴があります。

かなり強い性質を持っているため、皮膚に付いたり目に入ったりすると非常に危険です。


取扱いに注意が必要になるため、家庭用としてはあまり一般的ではありません。
※家庭用でもパイプ洗浄剤など強アルカリ性の製品はあります。

もし使用する場合は、ゴム手袋や保護メガネなど必要な保護具を着用しないと危険です。

アルミニウム(Al)とアルカリの反応

アルミ缶に強アルカリ性洗剤を入れると何が起こるのか見て行きましょう。

アルミ缶はアルミニウムという金属で出来ています。

元素記号は『Al』です。

アルミニウムは両性元素と言って、酸ともアルカリとも反応する金属です。

では、アルミニウムとアルカリの反応を見てみましょう。

アルカリは、洗剤にも使われる苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)とします。

2Al + 2NaOH + 6H2O → 2Na[Al(OH)4] + 3H2

化学的にはこのような反応が起こります。

ここで一番最後に注目してみると『H2という記号が出てきます。
H2というのは『水素ガス』を表しています。

つまり、アルミ缶に強アルカリ性洗剤を入れると化学反応により『水素ガス』が発生するということです。
同時にアルミニウムも溶けるため、缶の強度も徐々に弱くなっていきます。

密閉されたアルミ缶の中で水素ガスが徐々に発生し、圧力に耐えられなくなって噴出や破裂が起きたというのがこの事故の正体です。

アルカリ以外との反応

アルミニウムはアルカリ以外とも反応します。

アルミニウムと酸の反応

アルミニウムは両性元素なので酸とも反応します。
たとえば塩酸とは下記のように反応し、これもまた水素ガスが発生します。

2Al + 6HCl  → 2AlCl3 + 3H2

なお、アルミニウムは濃硝酸や熱濃硫酸など、特殊な条件の酸には溶けません。
これは酸化力の強い酸と接触したときは、表面に酸化物の被膜が形成され、それ以上反応しなくなるからと考えられています。

これを不動態被膜といいます。

空気中や雨水など中性に近い日常の状態においても、アルミニウムは同じく表面に不動態被膜を形成しているため錆びにくくなっています。

鉄と違いアルミサッシが雨ざらしでも錆びないのはこのためです。

アルミニウムと水蒸気の反応

アルミニウムは通常の水とは反応しませんが、高温の水蒸気とは反応します。

2Al + 6H2O → 2Al(OH)3 + 3H2

アルミニウム合金に高温水蒸気を作用させて、耐食性や強度を高める技術を芝浦工業大学のある研究室が開発したそうです。

コーラのアルミ缶は爆発しないのか?

コーラなど清涼飲料水の多くは酸性なのを知っていますか?

特にコーラは㏗2~3くらいで結構な酸性です。
なぜならコーラ飲料には酸味料としてリン酸が入っているためです。(リン酸:H3PO4

アルミニウムは酸と反応するので、コーラが入っているアルミ缶も反応して爆発するのでは?と思ってしまいますが実際そのようなことは起きていません。

現在の飲料用の缶は内部がエポキシ性樹脂やポリエステル系樹脂などでコーティングされているためです。
酸性のコーラと金属素地が直接接触していないので当然反応も起こりません。

※『コーラの缶を透明にする』といった動画がyoutubeにありますので興味があれば検索してみて下さい。

しかし缶の内側がコーティングされているのであれば、アルカリ洗剤だって反応しない気がします。

これに関しては、はっきりとは言えませんが一部のアルカリ性洗剤には溶剤が含まれていて、その溶剤がコーティングを溶かし金属とアルカリが反応している可能性があるようです。

別の可能性として、エポキシ樹脂は%NaOHで煮沸すると分解すると言わてれいるので、徐々にエポキシ樹脂が溶けているのかもしれません。

また、コーティングにわずかな傷が少しでもあれば当然そこから少しずつ反応していきます。

理由は一つではないのかも知れません。

化学物質と容器

化学物質にはそれに適合する容器を用いる必要があります。
さもないと、今回のように容器と中身が反応してしまう危険性があります。

店頭に並んでいる洗剤や塗料も安全性を考えて、それにふさわしい材質の容器が使われているということです。

製品が入っている容器にもちゃんと意味があります。



酸やアルカリに金属容器は厳禁ですし、有機溶剤にプラスチックの入れ物を使うと溶けてしまう可能性があります。

また反応とは異なりますが、灯油用ポリタンクにガソリンを入れたら静電気で引火の危険性があります。
ガソリンは既定の金属容器を使わなければなりません。


製品の補充や移し替えする場合は、説明に書かれていることを守り化学物質の性状に合った容器を使わなければ重大事故につながる危険があります。

たかが容器とあまく見ないで、十分注意しましょう!

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