クロムの毒性と処理方法

皆さんクロムって聞いたことありますか?

「クロムハーツなら知っているけど・・・」

っていう人はいるかも知れませんがアクセサリーではありません。

クロムは私たちの生活に欠かせない元素です。〔※元素記号 Cr〕

でも人体に有害な物質として色々と規制されています。少し前には江東、江戸川区で六価クロムの流出が問題になりました。

クロムがどんな用途で使われ、どんな毒性があるのか、また廃棄物として発生したクロムはどのように処理されるのでしょうか?

目次

クロムの用途

 クロム(Cr)は1797年にルイ=二コラ・ボーケランがシベリア産の紅鉛鉱(クロム酸鉛)から鉛を除去した未知の酸化物(Cr2O3)を生成したことにより発見されました。

 クロムの化合物には様々な色彩を持つことから、ギリシャ語の色という意味を持つChromaから命名されました。

 クロムが使われる最も身近なものはステンレス鋼です。クロムは鉄を錆びにくくするために合金という形で使われています。消費量の95%が合金材料として使われています。

 また、めっきにもよく使われます。水道の蛇口が代表例です。金属クロムは硬いので印刷ロール等に硬質クロムめっきを施し耐摩耗性を上げています。

 クロムは金属以外に化合物としても多く利用されています。

 クロムは2価、3価、4価、6価などいろいろな酸化数を取ります。中でも3価と6価のクロムが良く使われます。

 6価クロムと鉛の化合物のクロム酸鉛は通称クロムイエローと呼ばれ黄色顔料として使われていましたが最近は6価クロムの有害性を考慮し、使われなくなってきています。

 3価のクロムはタンパク質と結合しやすい性質を利用して皮革なめし等に使われています。

 今現在、新しい設備には使われていませんが、大型ビルの空調に使われる吸収式冷凍機の防食剤として吸収液の臭化リチウム水溶液に6価クロムが添加されています。

※今はクロムではなくモリブデンが添加してあります。

 吸収式冷凍機を廃棄する際には、内部の臭化リチウム水溶液を回収したのち、6価クロムの処理をしなければなりません。

 今現在、クロムの主な産出国は、南アフリカ、トルコ、カザフスタン、インド、フィンランド等です。一番の輸入国はステンレス生産量世界一の中国です。

クロムの毒性

 先ほども述べましたが、クロムには主に酸化数が6価と3価のものがあり、毒性が強いのが6価のクロムです。様々な環境系の法律において、有害物質として主に規制されているのは6価クロムです。

主な症状は

  • 鼻中隔穿孔(牛のように鼻に穴が空いてしまう)
  • 肺がん
  • 皮膚障害(極めて治りにくい潰瘍)
  • その他呼吸器系障害

 などが知られています。

 6価クロムは酸化力が強いのでその作用の所為でしょうか。ただし近年は作業環境が向上し、上記のような症状は少なくなっていると思います。

※ちなみに、ある特定の6価クロムを扱う業務に就いている人が定期的に受ける特殊健康診断の結果記録は30年間の保存義務があります。時間を経て症状が出てくるということでしょう。

クロム廃棄物の処理

 さて、クロムを使用する業種からは当然の如くクロム含有廃棄物が発生します。それらは一体どのように処理されるのでしょうか?

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)では6価クロムは

  • 汚泥等…1.5㎎/L
  • 廃酸・廃アルカリ…5㎎/L

という規制値があります。

この値以上の6価クロムを含んでいる(溶出する)廃棄物は6価クロムの処理をしなければなりません。

6価クロムを含んでいる液体廃棄物には

  • クロムめっき廃液(濃厚クロム)
  • CODCr分析廃液(排水のCOD〔化学的酸素要求量〕を分析した廃液)
  • 臭化リチウム廃液(吸収式冷凍機に充填されていた吸収液を回収したもの)
  • 実験廃液(大学、研究所などから発生する6価クロムを含んだ廃液)

などがあります。

処理方法をざっくり言うと、6価クロムを3価クロムに還元します。

中学か高校の化学で習う、酸化・還元反応を利用します。

※酸化・還元についてはいろいろなサイトで解説されていますので検索してみてください。

 何だか難しそう!と思うかもしれませんが世の中便利なもので6価クロム処理専用の還元剤が処理薬剤として存在します。

 チオ硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸系薬剤が良く使われます。

 なお、ヒドラジンやSBH(水素化ホウ素ナトリウム)、硫酸第一鉄などの還元性物質であれば還元自体は大体できます。

 反応が進むと、茶色だった廃液が緑色に変わります。6価クロムは茶色っぽい色ですが3価クロムは緑色です。

※薬剤を入れるpHは2~3が良いとされていますが亜硫酸系薬剤を入れるときは亜硫酸ガスが出やすいので添加量は加減しながら入れます。

 緑色の3価クロムになったところで、苛性ソーダなどで中和すると不溶性の水酸化クロムの沈殿が生成します。あとはこの沈殿を脱水機で脱水してひとまずは処理完了です。

 これで、非常に毒性の強い6価クロムを毒性の低い3価クロムの沈殿(水に不溶)に変えることが出来ました。

 これが6価クロム廃液の処理です。

 重クロム酸カリウムなどの固体試薬は水に溶かし上記のような水処理を行います。

 また、クロムが付着したプラスチックやウエスなどの固形物は焼却処理されることが多いと思います。

 クロムは我々の生活に欠かせない重要な物質ですが、正しい知識と扱い方を知らなければ人体に悪影響を与える物質です。

 そのため法律で規制されており、専門の処理業者により人体や環境に影響が出ないように処理されています。

 これから、ステンレス製品や水道の蛇口などを見たり、革ジャンを着たとき、

 「あ~、そういえばクロム(Cr)が使われてるんだなぁ~」

 と思いを馳せてみてはいかがでしょう。

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