なぜ白くなるのか?漂白の化学

ワイシャツの黄ばみなどは普通に洗濯しただけではなかなか落ちませんよね。

そういうときに活躍するのが漂白剤です。

ところでなぜ漂白剤が汚れを白くするのか考えたことはありますか?

白くなるのは理由があります。

結論から言うと、漂白剤は汚れを落としているのではなく、白く見せているだけなのです。

どういうことか化学的に見て行きましょう。

目次

光の吸収

漂白の仕組みを理解するためには、色が見える仕組み、つまりある程度光の性質について知る必要があります。

たちが物を見ることが出来るのは、物体に当たった光が反射して目に飛び込んできているからです。

だから光の反射しない真っ暗なところでは物が見えません。

物体がそれぞれ違う色に見えるのも、この光の性質が関係しています。

私たちが見ることのできる光を可視光と言います。

可視光は波長により色が違います。

いわゆる七色に見える虹の色です。

物質に光が当たると特定の波長の光を吸収します。

そして吸収しなかった光を反射します。

この反射した波長の光が色となって目に写ります。

なお吸収した光の反対側の波長の色(補色という)が見える性質があります。

色相環図

上の図は色相環図と言って、対角線上の色がそれぞれの補色になっています。

たとえば物体が青っぽい光を吸収するとその補色の黄色っぽい色を反射するためその物体は黄色く見えます。

また、すべての波長の光を反射すると白く見え、すべての波長の光を吸収すると黒く見えます。

黄ばみの正体

衣類の黄ばみの原因として、よく汗と皮脂汚れが挙げられます。

黄ばみというものは時間が経つほど目立ってきませんか?

ということは、付着した汚れが空気中の酸素と反応、いわゆる酸化反応を起こしている可能性が高いと思われます。

汗の成分はほとんどが水分と塩化ナトリウムなどの塩類なので、単純に汗そのものが酸化されて黄ばみの原因になるとは化学的に見ても考えにくいです。

人間が汗を分泌する汗腺には2種類あり、エクリン腺アポクリン腺です。

エクリン腺はほぼ全身にあり、主に体温調節のために出る汗でほぼ水分です。

一方アポクリン腺は脇など限られところにあって、そこから出る汗はタンパク質や脂質を含んでいます。

よくよく考えると、黄ばんでいるのはアポクリン腺があるところに接触している部分が多い気がします。

タンパク質が酸化などで変化して黄ばみのもとになっている可能性は非常に高いと考えられます。

同じく皮脂汚れ、特に不飽和脂肪酸が付着していると時間とともに酸化して黄ばんでいく傾向があるようです。

酸化に加えて、不飽和脂肪酸どうしが結合して巨大分子となりさらに黄ばみが増すのではないかという説もあります。

衣類の汚れのメカニズムは完全には解明されていません。

しかし、タンパク質や脂質が黄ばみの原因の一つとなっているのはほぼ間違いないと言っていいのではないでしょうか。

黄色く見えるのは二重結合のしわざ⁉

黄ばみの原因が汗や皮脂汚れの可能性が高いということは分かりました。

ではなぜこれらは黄色く見えるのでしょうか。

これには黄ばみ汚れの分子構造が関係してきます。

有機物はその構造の中に炭素を持っています。

そして、有色の有機物の多くは炭素の二重結合を持っています。

さらにその二重結合は一重結合と交互に並んでいて、これを共役(きょうやく)二重結合と言います。

この共役二重結合が短いうちは無色透明ですが、長くなるにつれて色彩が出てきます。

例えば、トマトが赤く見えるのはリコピンという二重結合を11個も持つ分子が赤く見えるからです。

また、ニンジンに含まれるカロテンも同じく多くの二重結合を持っているのでオレンジ色に見えます。

衣類の黄ばみ汚れの構造もこのような共役二重結合を持っているので色として見えると考えられています。

ということは色を消すには、この共役二重結合のつながりをどこかで断ち切ってしまえば良い、ということになります。

そもそも洗濯でこの汚れ成分が洗い流されてくれれば一番良いのですが、洗剤で完全に洗い流すのはなかなか難しく、どうしても繊維に吸着されたりして残ってしまいます。

そこで、漂白剤の出番です。

漂白剤の作用

洗剤と漂白剤の違いを端的に言うと、洗剤が『汚れを洗い流す』に対し、漂白剤は『汚れを破壊する』と言えます。

漂白剤が汚れに作用すると、炭素-炭素二重結合の構造が変化します。

炭素-炭素一重結合に変わったり、場合によっては結合が切れるかも知れません。

反応に関しては単一ではなくいろいろな形で起こっている可能性がありますが、結果的に二重結合が切れた状態になります。

二重結合が切れて共役二重結合が短くなれば可視光領域の波長を吸収しなくなります。
可視光を吸収しないということはすべての色の波長を反射することになります。

つまり人間の目には白く見えるようになります。

言うなれば漂白剤は汚れを見えなくしている、と言い換えることができます。

漂白剤の種類

漂白剤にはいくつか種類があります。

まず、酸化型漂白剤還元型漂白剤に分けられます。

酸化型漂白剤とは、二重結合を酸化(= 酸素をくっつける or 水素を奪い取る)して破壊する作用があります。

還元型漂白剤とは、二重結合を還元(= 水素をくっつける)して破壊する作用があります。家庭用としては一般的ではありません。

さらに、酸化型漂白剤には塩素系漂白剤と酸素系漂白剤があります。

それぞれに特徴があり、用途によって使い分ける必要があります。

スクロールできます
漂白剤の種類特徴・用途主成分注意点
塩素系
(酸化型)
漂白力★★★
油や皮脂、コーヒー、醤油などによるシミ、黄ばみの漂白。除菌、消臭。
 次亜塩素酸ナトリウム    色柄物には使えない。
毛や絹、ナイロン、ポリウレタン、アセテートなどには使用不可。
酸性洗剤と混ぜると塩素ガスが発生!
酸素系
(酸化型)
漂白力★(液体)
漂白力★★(粉末)
油や皮脂、コーヒー、醤油などによるシミ、黄ばみの漂白。除菌、消臭。色柄物にも使える。
過酸化水素(液体)
過炭酸ナトリウム(粉末)
漂白力はやや劣る。
頑固な汚れは落ちない場合がある
毛、絹には使えない(粉末)
還元型漂白力★★
鉄さびや赤土によるシミ、黄ばみなどに有効。
ハイドロサルファイト
二酸化チオ尿素
色柄物には使用不可。
漂白剤の比較

蛍光増白剤

漂白剤の作用で黄ばみ汚れが白くなることを見てきました。

でも、白くはなったけれど何となくくすんで見えるときがあります。

そんなときには蛍光増白剤入りの洗剤を使うと、さらに白さが増して鮮やかに見えるようになります。

蛍光増白剤には紫外線を吸収すると青っぽい光を出す物質が含まれています。

これを蛍光と言います。

その青っぽい光が白い布をより鮮やかな白に見せる作用があります。

これはいわゆる染料で、蛍光染料で衣類を染めている状態になっています。

白い衣類に使うと鮮やかな白になりますが、色付きのものに使うと逆にくすんだ感じになる場合があるので、説明をよく読んでから使いましょう。

まとめ

普段何気なく使っている漂白剤ですが、化学の視点でみるとまた違った面白さがあります。

漂白剤は汚れを洗い流しているのではなく、汚れを『破壊』していると言えます。

汚れの科学的性質と漂白剤の科学的性質を上手く作用させて使っているというすばらしい技術といえるのではないでしょうか。

このように非常に便利なものですが、反面正しく使わないと危険も伴います。

漂白剤、特に塩素系漂白剤と酸性洗剤などの酸性物質を混ぜると非常に危険な『塩素ガス』が発生します。

容器の表示には必ずまぜるな危険!という注意書きがあります。

家庭内にもいろいろな化学物質があふれています。

正しい知識を身に着け、正しく使ましょう。

そうすることで日常生活において化学物質の恩恵を最大限に受けることが出来ます。

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