消しゴムでなぜ消えるのか?鉛筆と消しゴムの科学

普段何気なく使っている鉛筆と消しゴムですが、なぜ鉛筆で紙に文字を書くことができて、なぜ消しゴムで字が消えるのか、考えたことはありますか?

ふと疑問に感じたので調べてみたところ、実に興味深い科学が隠されていました。


今回はその、鉛筆と消しゴムの不思議についてお話したいと思います。

目次

鉛筆の芯

鉛筆の芯は黒鉛と粘土で出来ています。水を加えてよく練って芯の太さに押し出して成形します。これを乾燥させたのち、1000℃~200℃くらいで焼きかためます。

それからすべりを良くするため油に浸し、しみこませます。

そうして出来た芯を木の板に挟み込んで鉛筆の形にして完成です。

参考:三菱鉛筆【えんぴつ工場見学】https://www.mpuni.co.jp/special/tour/pencil.html

紙の表面はザラザラ

鉛筆で文字を書くときは紙に書きます。

文字が書けることには紙の構造も大きく関係しています。

紙の製造工程は、まず木材チップと苛性ソーダなどの薬品を高温高圧の大きな窯(蒸解窯)で煮込みます。

そうすることで木材に含まれている『リグニン』という成分が分解し繊維がバラバラになります。

※リグニン
 樹木に含まれる高分子フェノール化合物の総称。繊維と繊維を結びつける役割があり、樹木を強固にする。
 リグニンのおかげで木は固い状態で立っていられる。

最終的にバラバラになった繊維を機械で毛羽立たせ、お互いがくっつく状態にして薄く紙状に仕上げます。

簡単にいうと紙は細かい繊維が絡みあっている状態といえます。なのでミクロのレベルまで拡大してみると表面はかなりザラザラしています。

参考:日本製紙グループ【紙の豆知識チップ君の工場見学】 https://www.nipponpapergroup.com/knowledge/chip/factory1.html

鉛筆で紙に字を書くと、鉛筆の芯が削れて紙の繊維の隙間に入り込みます。

繊維に絡みこんでいるため擦っても字は消えずに残ります。

これが鉛筆で紙に文字が書ける仕組みです。

消しゴムで字が消えるしくみ

紙に書かれた鉛筆の文字が消しゴムで消せるのはなぜか?

と考えた場合、

こすった摩擦で鉛筆の黒鉛を掻き出しているのでは?

と考えるかも知れません。

確かにそういう作用もあります。

でも実は、もっと化学的なメカニズムが作用しています。

消しゴムの原料

まず、消しゴムが何から作られているか見ていきましょう。

一般的なプラスチック消しゴムは

  • 塩化ビニル樹脂
  • 可塑剤(ジオクチルフタレート、ジブチルフタレートなど)
  • セラミックの粉末

これらが原料として使われています。

おおよそ、①:②:③=1:1.5:0.5 の割合のようです。

これらをよく練ってから120℃~130℃で1時間ほど加熱したのち固化させます。

この加熱の具合がポイントで、加熱しすぎるとゴムホースみたいに固くなってしまい、消しゴムとしては使えなくなります。

原料の一つに『可塑剤』というものがありました。じつはこの『可塑剤』こそが鉛筆の字を消す役割を担っています。

※可塑剤(かそざい)とは・・・

 可塑剤を樹脂に混ぜると柔らかくなり、加工しやすくなる。消しゴムのように柔らかい製品ができる。

可塑剤の成分であるジオクチルフタレートジブチルフタレートと鉛筆の芯の黒鉛はどちらもベンゼン環という分子構造を持っています。(※下記図 ベンゼン環)

ベンゼン環

よく似た構造を持っているの両者は親和性が高く、お互いに引かれ合う性質があります。

そのため、可塑剤と黒鉛が接すると磁石のように吸着されます。

つまり、紙の繊維に入り込んでいた黒鉛の粒子が消しゴムの可塑剤に吸い取られて字が消える、という仕組みです。

なお、消しゴムに混ぜているセラミックの粉末は、ほんのわずかに紙を削って黒鉛を露出させる研磨剤の役割を持っています。

ちなみに、完全に消すことは難しいですが、消しゴムをこすらずポンポンと何回か押し当てるだけでも鉛筆で書いた文字が薄くなっていくと思います。

試してみてください。

鉛筆とシャーペンの違い

鉛筆と同じくシャープペンシルで書いた字も消しゴムで消すことができます。

でも実は鉛筆の芯とシャーペンの芯は少し性質が異なっています。

鉛筆の芯は黒鉛と粘土で出来ていました。それに対しシャーペンの芯は黒鉛と合成樹脂を混ぜてつくっています。

シャーペンの芯は黒鉛と合成樹脂をまぜて、細く芯の形に形成し、1000℃くらいで焼いてつくられます。

焼かれることで樹脂の成分が気化して、後には炭素成分だけが残ります。

つまりシャーペンの芯はすべてが黒鉛とおなじ炭素成分で構成されていることにになり、粘土の成分が混ざっている鉛筆の文字より消しゴムに吸着されやすくなります。

鉛筆よりシャーペンの方が消しやすいはずです。
興味があれば比べてみて下さい。

芯の種類

現在、日本における鉛筆の芯の種類は、JIS規格で9Hから6Bまでの17種類あります。

これは黒鉛と粘土の割合によって決まります。

粘土が多いと硬くて薄く、黒鉛を多くすると柔らかく濃い書き味になります。

シャープペンシルの芯も同じく17種類に分けられています。

H:Hard(硬い)
B:Black(黒い)
F:Firm(しっかりとした)

※最近は規格外の10Bとか12Bなども売られています。

消しゴムのカスに注意!

消しゴムを使ったあとに出るケシカスはちゃんと集めてゴミ箱に捨てましょう。

消しゴムのカスをそのままにしておくと、たとえばそこが他のプラスチック素材だったりすると、消しゴムに含まれている可塑剤が染みだして、触れているプラスチック素材と融合してべたついたり、色が落ちてしまったりする場合があります。

消しゴムが紙のケースに入れられているのは、他の素材に直接触れるのを防ぐ意味もあるのでケースはできるだけ捨てないで使ったほうが良いでしょう。

塩ビを燃やすと・・・

消しゴムの原料には塩化ビニル樹脂が使われています。塩化ビニル樹脂は他にも様々なものに利用されています。

一般的なものでは水道管などに用いる塩ビパイプがあります。

また、料理に使うラップもポリ塩化ビニリデンという同じような構造を持っています。

これらには塩素が含まれています。

塩ビ類を燃やすと塩化水素というガスが発生します。

塩化水素は水に溶けると塩酸になり、金属を腐食します。

また、燃焼中のダイオキシン類発生の元となってしまいます。
(※ダイオキシンの毒性の有無については意見が分かれるところですが、現状法律で規制されています。)

そのため自治体や民間の焼却炉にとって、なるべく焼却したくない廃棄物のひとつです。

ちゃんと分別すればリサイクルに回すことができますので、処分する際はできるだけ分別して出しましょう。

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