お酒を飲む人は少なからず二日酔いを経験したことがあるのでは?
酒なんてもう二度と飲まない!と強く決心しても、治るとそのことは忘れてまた飲んでしまう。
なんてことは良くあります。
二日酔いのとき体の中で何が起こっているのか?
なぜ二日酔いになるのか?
体の中で何が起こっているのか?
アルコールとアルデヒドの関係と二日酔いのメカニズムを見ていきたいと思います。
また、アルコールの中でもメタノール(メチルアルコール)を飲むと失明すると言われますがその理由も探ってみましょう。
アルコールが体内に入るとどうなるのか?
アルコールにはいくつか種類がありますが、お酒に含まれているのはエタノール(エチルアルコール)です。
お酒を飲むとエタノールは胃で約20%、小腸で約80%吸収されると言われています。
また胃ではゆっくり、小腸では素早く吸収されるそうです。
その後、大半は血管を通じて肝臓に運ばれ、酵素の作用で化学変化を起こします。
体内に入ったエタノールはアルコール脱水素酵素(ADH)の触媒作用により酸化され、アセトアルデヒドに変化します。
次に、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の作用でさらに酸化され酢酸に変わります。
その後、酢酸は体内を循環するにつれ二酸化酸素と水になって排出されます。
C2H5OH → CH3COH → CH3COOH → CO2 + H2O
エタノール → アセトアルデヒド → 酢酸 → 二酸化炭素 + 水
アルコールを摂取したあとの体内では、このような変化が起こっています。
アセトアルデヒドの毒性
お酒を飲むと体内ではエタノールが酸化されアセトアルデヒドが生成しますが、このアセトアルデヒドはけっこう強い毒性をもっていて、つらい二日酔いの原因となっています。
顔が赤くなる(フラッシング反応)、頭痛、吐き気など二日酔いの症状はアセトアルデヒドの毒性によるものと言われています。
このように、アセトアルデヒドには二日酔い症状をもたらす毒性があるのですが、実は様々な食品にも含まれています。
アセトアルデヒド含有食品の例
・果物及びフルーツジュース(0.2~230ppm)
・野菜(0.2~400ppm)
・乳製品(0.001~76ppm)
・パン(4.2~9.9ppm)
・お茶及びソフトドリンク(0.2~0.6ppm)
・ビール(0.6~24ppm)
・ワイン(0.7~290ppm)
・蒸留酒(0.5~104ppm)
なお、欧米ではかねてより清涼飲料水、キャンディーなどいろいろな加工食品に香りを付けるための食品添加物として使われています。日本でも安全性に問題がないことが確認されたため、食品添加物として認証され香料として使われています。
アセトアルデヒドは水にも脂にも溶け易いため蓄積性は低く、そもそも体内で生成される中間代謝物なので体の中には当たり前のように存在します。
したがって食品添加物程度の濃度では人体に害をなすものではありません。 天然の食品にはそれ以上含まれているものもあります。
よく添加物というワードに過敏に反応する人がいますが、それぞれの物質の性状をしっかり理解した上で判断する必要があります。
食品添加物をはじめ、化学物質は人類に多くの恩恵をもたらせていることは紛れもない事実です。例えば、食品に使われる保存料がなければ世界中の多くの人たちが飢餓で苦しむことになるでしょう。
あらゆる化学物質は使い方次第で薬にも毒にもなります。適正に使用し、しっかり管理していくことがこれからの化学物質管理に求められます。
お酒に強い人、弱い人がいるのはなぜ?
世の中には、いわゆるお酒が強い人とお酒が弱い人、中にはまったく飲めない人がいます。
お酒が強いか弱いかを決める要素は、その人が持つアセトアルデヒド分解酵素の活性が強いか弱いかで決まってきます。
アルコールをアルデヒドに変えるアルコール脱水素酵素(ADH)の能力に個人差はあまりないそうです。
個人差が出るのがアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)をどれだけ持っているかということになります。
酵素の種類
アセトアルデヒドを分解する酵素は次の2種類があります。
- ALDH1型・・・血中アセトアルデヒド濃度が高くなってから働き、ゆっくり分解する酵素(やや弱い酵素)
- ALDH2型・・・血中アセトアルデヒド濃度が低いときから働き始める強力な酵素
このうち、ALDH2型の活性遺伝子の型によりお酒に強い弱いという差がでると言われています。
この活性遺伝子には、お酒に強いN型(ALDH活性型)とお酒に弱いD型(ALDH不活性型)があり、どちらかひとつずつを両親から受け継ぎ以下の3種類の型のどれかを持つことになります。
- NN型・・・・ALDH2型の正常活性遺伝子型(お酒に強い)
- ND型・・・・NN型の16分の1の活性しかない遺伝子型(ある程度は飲める)
- DD型・・・・ALDH2型の活性のない遺伝子型(ほとんど飲めない)
人類はもともとN型を持っていましたが突然変異でD型が現れ、特に北方アジア系民族にお酒に弱いD型が多く、日本人も比較的D型遺伝子が多いようです。
自分がどの型を持つのかは血液検査をすれば分かるようですが、簡単なパッチテストでもある程度分かります。
消毒用アルコールを染み込ませた絆創膏を肌に張り、10分くらいして赤くなればお酒が弱い遺伝子を持っている可能性が高いです。
また、少しのお酒で顔や体が赤くなる人も基本的にはお酒の弱い遺伝子を持っていると思われます。
飲み続けるとお酒に強くなるって本当?
お酒が弱い人でも訓練すれば強くなる、と言われることがあります。
これは本当でしょうか?
お酒(エタノール)はアルコール脱水素酵素(ADH)でアルデヒドに酸化されると言いましたが実はアルコールを分解する酵素はADHだけではありません。
アルコールを酸化する酵素は主に3種類あります。
- アルコール脱水素酵素(ADH)
- ミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS)
- カタラーゼ
お酒を飲み続けるとこの中のMEOSの活性が上がり、お酒に対する耐性が上がってくると考えられています。
また、アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2型)の活性も少しずつ上がってくるという説もあります。
MEOSはもともと薬物の代謝に作用する酵素ですが、アルコールの代謝活性も上がってくるようです。
ただ、MEOS活性が上がることで肝機能障害のリスクが上がるとも言われますので、いずれにしても無理にお酒に強くなろうとするのはやめた方が良いでしょう。
お酒と薬を一緒に飲んではいけない理由
お酒と薬は一緒に飲んではいけないと言われますがなぜでしょうか?
薬が効きすぎる!
MEOSなどの酵素はアルコールも薬も分解します。
お酒と薬を一緒に飲むと、本来は薬を分解するMEOSがアルコールの分解にも使われます。
そうなると、それだけ薬の分解が遅くなり血中に薬の成分が長く残ることになります。
ずっと成分が残っているので、本来よりも効き目が強くなってしまいます。
睡眠薬など薬によっては昏睡状態になってしまうなど、命にかかわることもあるので注意が必要です。
薬が効かない!
またお酒を良く飲んでいる人はアルコールを分解する酵素の活性が上がっています。
そういう人が薬を飲むと、アルコールと同じ様に薬の分解も通常より進むため薬の成分が早く体内から消えます。
つまり、薬が効きにくい体になっているという事です。
お酒を飲んだあとラーメンが食べたくなるのはなぜ?
お酒を飲んだあとに無性にラーメンが食べたくなることってありませんか?
締めのラーメンは定番です。
この現象も体の中で起こっているメカニズムから説明ができます。
糖質を欲する
アルコールの分解は主に肝臓で行われます。肝臓が働く際に糖質を消費し血糖値が下がります。
そのため脳が血糖値を上げようと糖質を求めます。
塩分を欲する
お酒を飲むと血中アルコール濃度が上がります。また血中だけでなく神経細胞にも入り込み神経伝達機能を低下させます。
すると脳が神経伝達機能を回復させようとして、伝達に必要なナトリウムイオンを要求します。
つまり塩分が欲しくなってきます。
また、アルコールには利尿作用があるため尿に含まれる塩分も失います。
酵素の働きを助ける成分
ラーメンにはイノシン酸やグルタミン酸といった成分が含まれていますが、これらは酵素の働きを助けるといわれています。
つまり、ラーメンには上記の成分がすべて含まれています。
お酒を飲んだあとにラーメンが食べたくなるのはそのためだと言われています。
無意識のうちに脳が欲しているというわけです。
ただし、お酒やおつまみですでにかなりのカロリーを摂取しているため、さらにラーメンを食べてしまうとカロリーの過剰摂取になってしまいます。
体重を増やしたくない場合は我慢が必要です。
メタノールと失明
戦後間もない混乱期、闇市に『バクダン』と呼ばれる安価な密造酒が流通しました。
当時在庫過多になっていた軍用燃料アルコールを薄めて作ったものです。
このバクダンを飲んだ人達が失明したり、亡くなったりする事件が発生しました。
当時の軍用燃料アルコールにはメチルアルコール(メタノール)が混ぜられており、誤飲を防ぐために紅く着色されていました。
闇市で売るため活性炭などで着色は取り除かれていたようですが、メタノールの除去はされていませんでした。
この話から分かるように、メチルアルコール(メタノール)には強い毒性があります。
摂取すると失明することから『目散る』アルコールと呼ばれることもありました。
なぜメタノールを飲むと失明するのでしょうか?
メタノールを摂取するとエタノールと同じようにアルコール酸化酵素、アルデヒド酸化酵素によってアルコールからアルデヒドそしてカルボン酸へと変化します。
メタノールはホルムアルデヒドに変化し、さらにギ酸に変化します。
CH3OH → HCOH → HCOOH
メタノール → ホルムアルデヒド → ギ酸
ホルムアルデヒドとギ酸はともに毒性が高い物質ですが、なぜ失明につながるのでしょうか。
緑黄色野菜などに含まれるカロテンは体内に入るとビタミンAに変化します。
ビタミンAは分子にOH基を持つアルコールです。
同じアルコールなのでアルコール酸化酵素の作用でレチナールというアルデヒドに変化します。
このレチナールのおかげで私たちは物を見ることができます。
視覚にとって重要なレチナールを常に作り出さなければならないので、眼の周辺にはアルコールやアルデヒドを分解する酵素が多く存在すると言われています。
つまり、メタノールを摂取すると眼の周りに、毒性の強いホルムアルデヒドやギ酸が優先的に生成します。
主としてギ酸による影響が大きいようです。
これがメタノールを飲むと失明する理由と考えられています。
個人差はありますが、メタノールの毒性は経口摂取量として、
失明・・・10ml以上
致死量・・・30~100ml以上
と言われています。
10mlといったらショットグラス1杯分にもならない量です。
くれぐれもメタノールは飲まないように!!
二日酔いを防ぐには?
これまで見てきたように、お酒を飲むと体の中では酵素の作用で
エタノール → アセトアルデヒド → 酢酸
と変化していきます。
二日酔いはエタノールが変化したアセトアルデヒドが主な原因となっています。
二日酔いにならないためには体内の血中アルデヒド濃度を増やさず、速やかに酢酸まで分解させなければなりません。
そのためには以下のことが有効と考えられます。
空腹で飲まない
胃に何もない状態でお酒を飲むと胃や腸からのアルコール吸収が早くなり、その結果血中アセトアルデヒド濃度も高くなります。
また、空腹時はアルコールやアルデヒドの分解速度が遅くなるともいわれています。
水分を取りながら飲む
血中アルコール濃度やアセトアルデヒド濃度を下げるには水分で薄めるという方法があります。
なるべく水分を取りながら飲みましょう。
飲み過ぎない
人それぞれお酒に対する耐性が違います。
お酒に弱いという自覚がある人は、アルデヒド分解能力が生まれつき弱い人です。
自分の体質を見極めて必要以上に飲み過ぎないようにすること。
結局これが一番重要です。
まとめ
お酒を飲んでほろ酔いになると気分が良くなります。
これはエタノールが大脳新皮質の働きを鈍くしたり、またドーパミンを分泌させたりするためと言われています。
気分が良くなったあとは、人によっては気分が悪くなったり、頭が痛くなったりと二日酔いの症状になるかもしれません。
気分が良くなるのも悪くなるのも、体の中で起こっている作用によるものです。
自分の体内で起こっている化学変化を想像しながら適量をおいしく飲みましょう。
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