シャンプーとリンスを混ぜればリンスインシャンプーになるのでは⁉
そんなことを考えたことはありませんか?
結論から言うと、シャンプーとリンスを混ぜてもリンスインシャンプーにはなりません。
ならないどころか、お互いの良いところを打ち消し合ってもともとの機能も失ってしまいます。
シャンプー、リンス、リンスインシャンプーを化学の目で見るとその違いが分かってきます。
シャンプーとは
普段何気なく使っているシャンプーですが、シャンプーにはどんな役割はあるのでしょうか?
シャンプーの主な目的は髪と頭皮の皮脂汚れ(油汚れ)を取ることです。
そのシャンプーの主成分は界面活性剤と呼ばれる化学物質です。
シャンプーが泡立つのは界面活性剤が入っているからで、その作用で髪や頭皮の油汚れをとり除きます。
なぜ界面活性剤で油汚れが落ちるのでしょうか?
界面活性剤とは
界面活性剤とは、文字から察するに『界面を活性させる』ものと推察できます。
界面とは
『異なる性質の2つの物質の境界面』を界面と呼びます。
世の中には性質の異なる物質は無数に存在しますが、界面には5つのパターンがあります。
- 固体と固体・・・スマホと指、紙とハンコ
- 固体と液体・・・ペットボトルとお茶、エンジンとエンジンオイル
- 固体と気体・・・地面と空気、ボンベとプロパンガス
- 液体と液体・・・水と油
- 液体と気体・・・海と空気、シャボン玉
日常生活で一番なじみがあるのが④の水と油ではないでしょうか。
シャンプーもこの水と油の界面が関係します。
活性剤とは
では活性剤の活性とはなんでしょうか?
界面と同じく日常では使わない専門用語的な言葉ですが、定義としては結構ざっくりしていて『機能を発揮して性能を高めること』みたいな感じで使われています。
界面活性剤とは、『界面上で機能を発揮して性能を高める化学物質』のことをまとめてそう呼んでいます。
『性質の違う2種類の物質をさらに役に立つものに変えるもの』と言えば良いでしょうか。
界面活性剤の構造
界面活性剤という化学物質の構造を少し化学的に見ていきましょう。
ここではシャンプーやリンスなどに使われている界面活性剤を見ていきます。
シャンプーに使われている界面活性剤の分子構造は
- 水になじみやすい部分(親水基)
- 油になじみやすい部分(親油基)※水になじみにくいという意味で疎水基とも呼ぶ。
一つの分子にこの二つの構造を持っています。
例えばラウリン酸ナトリウムという界面活性剤があるのですが以下のような構造になっています。
界面活性剤が汚れを落とすしくみ
皮脂などの油汚れは水だけではなかなか落ちません。
シャンプーを使うと、含まれている界面活性剤の油になじみやすい親油基(疎水基)が油汚れにくっつきます。
そして油を包み込んで水中に取り込まれます。
水中に取り囲まれた油汚れは、界面活性剤にしっかり包み込まれているので再び油汚れが髪や頭皮に付着することはありません。
そのまますすいだ水と一緒に流れていきます。
界面活性剤の種類
界面活性剤には大きく分けると以下の種類があります。
- アニオン性界面活性剤
- カチオン性界面活性剤
- 両性界面活性剤
- ノニオン界面活性剤
①、②、③は水に溶けたときに電離してイオンになるイオン性の界面活性剤、④はイオンにならない非イオン性の界面活性剤です。
シャンプーには主にアニオン性界面活性剤が使われます。泡立ちが良く、洗浄力に優れています。
アニオン性界面活性剤は水に溶けたとき、親水基が陰イオンになります。
リンスとは
昔はシャンプーに石鹸を使っていました。石鹸はアルカリ性です。
アルカリ性の石鹸で洗った後の髪の毛は、きしんだり、パサついたり、ゴワゴワします。
また、石鹸カスが髪の毛に残ってしまうこともありました。
これを防止するため、レモン汁やお酢など弱酸性の液体で髪をすすいで中和していたのがリンスの始まりと言われています。
リンスは『すすぐ』という意味です。
現在のシャンプーは、ほとんどが合成界面活性剤が使われています。
その中には弱酸性シャンプーなどもあります。
それでも、アルカリ性の石鹸ほどではないにせよ、髪がパサついたり櫛通りが悪かったりします。
シャンプーで髪の油分が失われているため、このようなパサつきが起こります。
現在のリンスは中和ではなく、失われた油分を取り戻すことを目的としています。
リンスのしくみ
リンスが機能するしくみを見ていきましょう。
リンスにも界面活性剤が入っています。ただリンスに使われる界面活性剤は、カチオン性界面活性剤と呼ばれるものです。
シャンプーはアニオン性界面活性剤でしたので、逆の構造を持つ界面活性剤です。
カチオン性界面活性剤は水に溶けたとき、親水基が陽イオンになる構造を持っています。
この陽イオンというのがポイントになります。陽イオンということはプラスの電荷を持っています。
そして髪の毛は水に濡れるとマイナスに帯電するという性質を持っています。
髪の毛が濡れるとマイナスに帯電するのは?
髪の毛の主成分はタンパク質です。
タンパク質は周りのpHによって電気的にプラスになったりマイナスになったりします。
そして電気的にプラスマイナスゼロになるpHを『等電点』と言います。
毛髪の等電点は 4.5~6.5 くらいと言われています。
そして毛髪などのタンパク質は、等電点より酸性側のpHではプラスに帯電し、等電点より塩基性(アルカリ性)側のpHではマイナスに帯電するという性質があります。
水はpH7なので、水に濡れた髪の毛は等電点より塩基性側のpHになっている状態です。
そのため『髪の毛は濡れるとマイナスに帯電する』ことになります。
髪の毛のマイナスと界面活性剤の親水基のプラスが電気的に引かれ合うことにより、カチオン性界面活性剤は親油基を表にして髪の毛にくっつく状態になります。
リンスの成分には高級アルコールなどのいわゆる油剤が含まれています。
これら油剤が髪の表面にある界面活性剤の親油基とくっつくことで髪の毛を滑らかな状態にします。
これが、リンスをすると髪の毛が滑らかになるしくみです。
リンス、コンディショナー、トリートメントの違い
最近はシャンプーのあとに使うものを、リンスとは呼ばずコンデショナーやトリートメントと呼ぶことも多いと思います。
これらの違いは一体なんなのでしょうか?
実は明確な定義がある訳ではなく、各メーカーによって定義はそれぞれ異なります。
ものすごくざっくり言うと、
- リンス、コンディショナー・・・髪表面をケアする
- トリートメント ・・・髪内部に浸透しケアする
このような違いとでも言いましょうか。
リンスとコンデショナーはほとんど同義語と思って差し支えないと思います。
トリートメントは髪の内部に浸透しダメージケアする成分が含まれています。
基本的にはどれも同じようなものなので、どれを使うかは自身の髪質やダメージ具合、あとは好みで選べば良いと思います。
リンスインシャンプーとは
はじめにも言っていますが、シャンプーとリンスを混ぜればリンスインシャンプーになる訳ではありません。
なぜ両者を混ぜてもリンスインシャンプーにならないのでしょうか?
シャンプーとリンスを混ぜると・・・
シャンプーにはアニオン性界面活性剤が、そしてリンスにはカチオン性界面活性剤が使われています。
アニオンは電気的にマイナスの性質、カチオンはプラスの性質を持っています。
この二つを混ぜると、プラスとマイナスがお互いくっついて電気的に中和されてしまいます。
プラスの性質とマイナスの性質に意味があるのですが、二つを混ぜることでお互いの効力を打ち消し合ってしまいます。
ということで、二つを混ぜるとリンスインシャンプーになるどころか、もともと持っているシャンプーとリンスの機能も失ってしまい、まったく意味がなくなります。
リンスインシャンプーの成分
ではリンスインシャンプーはどのようなしくみなのでしょうか?
リンスインシャンプーにもシャンプーと同じく、洗浄成分としてアニオン性界面活性剤が使われています。
洗浄のしくみはシャンプーと変わりません。
何が違うかというと、リンス成分が違います。
カチオン性界面活性剤が使われているのは同じですが、このカチオン性界面活性剤をたくさんつなげて『高分子化』したものを使っています。
この高分子カチオン性界面活性剤は、通常のものより水に溶けにくくなっています。
つまり、2つの成分が水に溶けていく『時間差』を利用しています。
まず、シャンプーのアニオン性界面活性剤が汚れを落とし、時間差で溶けだした高分子カチオン性界面活性剤が髪の保護をする、という原理になっています。
このように一見画期的に思えるリンスインシャンプーですが、やはりシャンプーとリンスを別々に使った場合に比べると効果は劣ります。
計算通り時間差が作用せず高分子カチオン性界面活性剤が一緒に流されてしまったり、効果が十分でなかったりということがどうしても出てきます。
それでも、時短を求めたり、特に髪は痛んでないのでそこまで髪の保護効果は必要ない、といった場合など、人によっては非常に使い勝手が良いということもあります。
何を選択するかは、自分の髪質や好みで、それぞれ決めていくことになるでしょう。
まとめ
シャンプーにはマイナスの性質を持つ『アニオン性界面活性剤』
リンスやコンディショナーにはプラスの性質を持つ『カチオン性界面活性剤』
が使われています。
それぞれ性質が違うので、これらを混ぜてもリンスインシャンプーにはならないということを見てきました。
市販されている製品には、当然これら界面活性剤以外にも色々な成分が含まれています。
このように家庭で身近に使っているものにも化学物質はたくさん使われています。
企業や研究者の方たちが、安全で安心して使える成分を日々努力して開発しています。
化学物質は危険なものではありません。
われわれの日常になくてはならないものです。
そういう気持ちで、シャンプーやリンスの裏側に書いてある成分表示を眺めてみて、
気になる物質名があれば是非自分で調べてみることをお勧めします。
ちなみに、産業廃棄物の分類でいうとシャンプーやリンスなどを廃棄する際の分類は、『廃酸』または『廃アルカリ』となります。
水に薄める前の原液などの場合は、性状によっては『廃油』になる場合もあります。
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